翻訳コラム

2022.07.13

用語統一の重要性

用語や表現を統一することは、正確でわかりやすい翻訳に重要な要素のひとつであると言われます。今回は用語統一の重要性についてお話ししたいと思います。

小説の場合は、多彩な表現を用いて読み手を飽きさせないように工夫します。他方で、技術文書では用語の統一が大切なこととされています。

用語を統一することはなぜ重要なのでしょうか。それは、同じ物を同じ言い方で統一しないと、読み手が別の物だと勘違いして、混乱してしまうからです。

では、用語が統一されない原因はどこにあるのでしょうか。

私が在籍していた開発部門では、技術者が製品開発の片手間に日本語のマニュアルを作成することが多かったので、技術者同士でだけ伝わる「方言」や「略語」が出現しました。例えば「ヒス」と書いてあったので、「ビス」の点が消えているかと思いましたが、「ヒステリシス」の略で、使用する用語が統一されていませんでした。テクニカルライターにお願いしても、技術者間の内部資料を基にマニュアルを執筆するので、そのようなことが起きる可能性は否定できません。

執筆担当者が複数いることも、原因の一つです。「ユーザ」か「ユーザー」、「インタフェース」か「インターフェイス」か、様々なゆらぎがありえますね。注意して原稿を読むと、図表と本文では表現が異なっていたり、章によって作者が違うため用語づかいが異なっていたりと気づくことがあります。章に限らず、マニュアルが複数存在する場合に、マニュアル間で用語の統一を図るのには苦労します。

そんなときのためにも、用語集を作成しておくことは大切です。後に、そのマニュアルの一部を修正して改訂版を作成するときに、新規に出現した用語に対し、過去の用語づかいを踏襲せず、これまでの流れとは合わない訳をあててしまうことを防止できます。

マニュアルなどの場合は、編集者が、文体が「ですます」調か、図表のナンバリングはどうするか、フォントの種類はどうするか、などを決めることも多いでしょう。そのときに、用語集も添えて提出すれば、効率良く編集できます。

以上のように、部品名やモード名などの固有名詞的なものは統一が必須です。一方で、頻出する動詞などは、時には表現を変えた方が良い場合もあるかとは思います。

用語を統一して、読み手に余計な負荷を与えないようにしたいものです。
(藤井)

執筆者プロフィール
  イギリス生まれ北海道育ち。小学生のときにアメリカで1年半過ごす。津田塾大学卒
  日本の半導体メーカーで技術系の翻訳に約20年従事。現在はフリーランス