翻訳コラム

2022.08.15

文書の種類が異なれば注意点も異なる

今回は、技術文書を翻訳するときの注意点を文書別に書いていきたいと思います。①取扱説明書やマニュアル類、②PR資料、③論文、④特許明細書、⑤契約書、についてそれぞれ触れていきます。

①取扱説明書やマニュアル類では、原文が、大事なことから先に書かれているはずなので、それを意識して訳していきます。取説の中で、先に書いてあるのものとして思い浮かぶのは「警告!」や「注意!」といった類のものです。いわゆるPL法(製造物責任法)(Product Liability Law)の記述です。製造物責任(PL)法は、製品の欠陥によって人の生命、身体又は財産に被害を被ったことを証明した場合に、被害者は製造業者等に対して損害賠償を求めることができるとする法律です。この中では「指示・警告上の欠陥」について定められています。簡単にいうと、取扱説明書の記載不備があれば訴えられてしまう可能性があるのです。そのため、この翻訳には注意が必要です。例えば、警告や注意書きを目立たせること、結論から書くこと、怠ればどのような危険があるかを明示することなどがあります。危険性について記述するとき、英訳の場合はmay(=してしまう可能性があります)などの弱い表現ではなくwill(=という結果を引き起こします)という直接的で強い表現を使うことが必要となります。

②PR資料では、自社製品を有利にプロモーションしたい気持ちに引きずられて、行きすぎた表現を使っていないかに注意します。例えば、最上級の表現などです。「最適」(英語optimumまたはoptimal)は使わず「適する」(suitable)にとどめたり、「日本一」と書く場合はいつの時点においてのことか根拠を明らかにしたりなどです。「不当景品類及び不当表示防止法(景表法)」が参考になります。

③論文の翻訳については、論文の形式を頭に入れることが大事です。また、論文を翻訳するにあたって、他の技術文書の翻訳と比べて、明らかにしたいのは話の展開です。したがって、文と文をつなぐ「接続詞」を適切に使って論理的に話を進めていくことが重要となります。

④特許明細書について、私自身は参考文献として英訳するものしか経験がありませんが翻訳時には当該特許がオープンクレームなのかクローズドクレームなのかを見極め、発明者の意図に沿った翻訳を実施しています。例えば、オープンクレームの場合は、comprise, include, haveなど非限定的な表現を使います。

⑤契約書の翻訳は、参考資料用しか翻訳したことがありませんが、どの節がどこに係っているのかということやどの助動詞を使用するか注意することが大事かと思います。フリーランスになってからは契約書類は「おっかない」ので避けています。

以上のように、技術文書と一口に言ってもいろいろな種類があります。翻訳もそれぞれに応じた専門スタッフに任せることが安心感につながることでしょう。
(藤井)

執筆者プロフィール
イギリス生まれ北海道育ち。小学生のときにアメリカで1年半過ごす。津田塾大学卒
日本の半導体メーカーで技術系の翻訳に約20年従事。現在はフリーランス