翻訳コラム

2023.02.22

技術者の意図と特許取得のための書類の作成内容の違い
   ~PCT出願を通じて理解が進んだこと~

技術者は技術開発に携わり、対象技術の良さを特許出願書類に記載しようとします。
しかし、特許書類を作成する特許業界の方は開発技術を権利化し、かつ権利範囲を広く獲得することを意識して、特許出願書類を作成されます。
特許業界の方には当たり前のことですが、その二つには差があり、技術者はそれを理解せずに特許出願書類を見てしまう傾向にあります。
その差があることを特許業界の方が文書などを使って技術者に説明し、理解された後に特許出願書類を作成するという手順を踏まなかったために、無駄な時間を使うということを経験したことがあります。このため、特許業界の方から特許書類の見方、特許文書の構成、明細書・図面の記載方法を学びました。技術者としての新規性と特許明細書に記載する新規性の違いを理解した時の驚きは非常に大きかったです。
技術者は、ユーザーが使ったときに使いやすい、効果がわかるといったことを新規性と考えています。しかし、特許明細書における新規性は産業分野における同種技術と比較したときの新規性です。技術者としての知識からの類似性ではなく、特許審査官の知見で引用文献となる技術が類似技術であり、彼らが提示する引用文献を見た時、技術者と特許審査官との差を知りました。
技術者としての知識は特許に直結して活用することはできず、特許の明細書の記載方法を理解したうえで、明細書において、対象技術の新規性を整理したことで初めて新規技術の特許性を理解できました。

次に、特許業界の方からPCT出願(国際特許出願)の必要性を提案頂き、国内特許の出願が完了した後にPCT出願をしたことがありました。
国内特許出願したことで達成感が大きかったのですが、特許業界の方の視点は異なっていました。開発技術の新規性が高かったため、PCT出願をすることで利用される可能性のある国々で開発技術をより広く権利化することを意識されていました。
その際初めて、本技術を使用する製造者はその技術の特許を有する会社だけでなく、その技術を活用できる分野まで広げることができるということを認識し、その重要性を感じました。

技術と権利・法律が混ざっているという意味では同じですが、日本語よりも英語の方が主語や係り結びの関係などが明確になるため、PCT出願のための英文作成を通じて技術者が特許の世界での技術の表現の仕方を理解してくれるようになったという経験もあります。
国内特許の文書構成において、主語と技術用語の使い方を細かく意識していませんでした。
PCT出願においても最初は、文書構成などを含め担当するスタッフに翻訳を任せていました。しかし、英語に翻訳する場合、主語と技術系キーワードのかかり方が重要であることを知ったため、技術者として技術の新規性を国内特許の明細書で記載した意図と技術要素を細かく翻訳担当者に説明しました。このため、開発技術について他国でも権利化し、かつ権利範囲を広く獲得するためには文書作りに積極的に関わる必要があることを理解しました。
こういったやり取りを経て、技術内容概略と詳細の目的、それぞれの技術のようする明細範囲を理解していただいた後、英語に翻訳してもらうことが重要であることを認識しました。それ以前とでは文書構成に大きな差が生じました。

国内特許明細書は審査官も日本語を理解できることが前提で文書を構成していますが、PCTの出願書類を作成する場合は、国内特許の明細書を単純に翻訳するのではなく、技術者視点の対象技術の新規性、および特許性を翻訳者に理解してもらった上で行うことが大切だと理解しました。
このことを最初から理解していれば、このような手間はなかったと考えましたが、この時間があったことで、PCT出願を通じて他国で権利を獲得したり権利をより広く獲得したりするために必要なことを理解でき、無駄ではなかったと感じています。
技術者としての視点だけではなく、特許を権利化するという特許業界の方の視点を技術者が理解して、どのようなステップで国内特許出願書類およびPCT出願書類の作成に携わればよいのか知ることができる経験でした。
(nicoさん)

筆者プロフィール:大学で衛生工学研究室に所属しており、卒業後に建設コンサルタント会社に就職し、
         公共事業の計画、設計をしていますが、その間に大学とともに共同研究をして
         ニーズのある分野に活かせる技術を開発しています。