翻訳コラム

2022.12.21

取扱説明書の翻訳 主題はインパクトを大きく、内容は正確に

取扱説明書の翻訳を依頼し、海外版を作成した際、国内版と大きく異なることになったという経験をしたことがありましたので、そのことをご紹介いたします。

国内の取扱説明書では、表紙にモノクロ写真を掲載し、商品名称及び型番等を記載するのが一般的です。
しかし、翻訳を依頼した製品は特許技術を有した技術製品だったので、一般的な仕様は説明書内に記載し、表紙やタイトル部分では他社製品と何が違うかを明確に文章化すべき、かつ特許技術により製品技術が変化したことを示すべきとの指摘を翻訳スタッフから受けました。
そして、タイトルは説明を簡略化して、短文で示すことにしました。
これらの点は国内の取扱説明書を作成する際に不要とされていたことであり、意識したことがないことであったため、海外向け取扱説明書は全く異なる目的を設定し、作成することになるのだと認識することになりました。

読者は一般ユーザーです。製品を使用するにあたっては不要であるため国内向け取扱説明書には示しませんが、海外向け取扱説明書では特許技術が製品機能を変えた点を示しました。表示方法は一般ユーザーに理解してもらえる簡易的な表現とし、目的と特許内容を明示することを意識しました。海外向けでは取扱説明書の構成を変更し、別の項目として説明しました。

次に、開発内容文書については、対象となる技術がどのように従来技術と異なるかを示すことと共に特許内容についても記載することを意識しました。従来製品と開発製品の相違点と従来技術と特許技術の相違点は別の項目として説明しました。
これらを分割することにより、読者が従来製品と開発製品の使用における改良点を理解できると共に、従来技術と特許技術の差を理解できるという2つのメリットを出すことができました。これも翻訳スタッフの指摘によるものでした。
国内向け開発内容文書では、従来製品と開発製品の使用における改良点のみが示されており、特許技術には触れないケースが多いですので、開発内容文書でも海外向けは構成から変更しました。
これらのことは、文章作成目的が国内読者向けと海外読者向けで異なっていることを示していました。国内向けの開発内容文書は技術者が読むことを想定しており、海外向けでは技術者と特許技術者を想定しているということです。

そのような構成にする理由として、特許技術がその製品の仕様に寄与しているからだけでなく、特許技術の評価が異なることがあげられます
特許技術には様々な種類がありますが、基礎技術に関する特許であれば、その応用性は多岐にわたります。このため基礎特許を示すことは少ないですが、製品仕様に寄与している応用特許であれば、開発内容文書に示す効果は大きいということになります。
開発内容文書を読む技術者は製品に関することと併せて、根本的な技術根拠を知るために読むケースが多いため、技術の開発内容文書に製品仕様に寄与している応用特許を記載するとその特許技術を応用することを考えることができるため、有用であると考えられます。
(nicoさん)

筆者プロフィール:大学で衛生工学研究室に所属しており、卒業後に建設コンサルタント会社に就職し、
         公共事業の計画、設計をしていますが、その間に大学とともに共同研究をして
         ニーズのある分野に活かせる技術を開発しています。